本記事は、YouTubeで発信されている「乳がんサバイバー看護師」ゆりさんの体験談をまとめたものです。
ゆりさんの担当医である、大阪医科薬科大学 乳腺・内分泌外科 岩本充彦先生の「ゆりさんの一人の患者として、また看護師として、まだ見ぬ誰かを、あるいは多くの乳癌患者を、自身の経験を語ることで勇気づけたいとする想いを繋げていきたい」というお気持ちに賛同して作成しています。
本記事は、ゆりさんご本人の主観を優先しているため、科学的根拠等について医師監修は行っておりません。
そのため、ご紹介内容の実例は全てを保証するものでは無いことをご留意ください。
今回は、ゆりさんが抗がん剤投与中に使っていた、吐き気止めの「ワイパックス」という薬についてのお話になります。
急性期と遅発性の吐き気には「イメンドカプセル」を使う
抗がん剤投与中に起こる吐き気は、大きく分けて2種類あります。
1つが、抗がん剤を投与してから24時間以内に起こる、急性期の嘔吐反応。
もう1つは、24時間以降に起こる、遅発性の嘔吐反応です。
吐き気止めの薬に「イメンドカプセル」というものがあり、急性期と遅発性、両方の吐き気に効果があります。
抗がん剤投与の初日と、その後2日間で合計3回は飲むことになる薬です。その3回の服用で、5日間くらい効果が持続します。
効果が高い「イメンドカプセル」は、すごく強い薬でもあります。
また、続けて飲んだときの安全性が保障されていないこともあり、3回分以上は処方をしてもらえません。
「ワイパックス」は、予期嘔吐に対して処方される
私の場合、2日分の「イメンドカプセル」と、3日分の「デカドロン」というステロイドの薬、それに加えて「ワイパックス」という吐き気止めの薬を処方されました。
「ワイパックス」は、朝昼晩の食事後に飲んでいました。
この「ワイパックス」という薬は、急性期や遅発性の嘔吐に対応するというより、予期嘔吐と言うものに対して、処方される薬になります。
予期嘔吐は、嘔吐中枢への刺激が原因
専門的な話になるんですけど、
そもそも、その吐き気が出てくる仕組みですが、脳の延髄に網様体があり、そこに嘔吐中枢があるのですが、その嘔吐中枢が刺激されることによって、吐き気が起こります。
抗がん剤を投与することによって、消化管粘膜が刺激されセロトニンという物質が作られます。
そうすると、身体の色々な場所が刺激され、先ほどお話した、嘔吐中枢に刺激が行ってしまい、吐き気を引き起こします。
第四脳室の最後野という部分にケモレセプタートリガーゾーンという、抗がん剤を投与することで反応するゾーンみたいなものがあって、そこから嘔吐中枢に刺激が行く、ということもあります。
予期嘔吐は「抗がん剤を投与すると吐き気が出る」と感じる心理的な反応で、大脳が吐き気を引き起こす刺激をしてしまうのです。
別のところから吐き気について脳が学習してしまい、それが、嘔吐中枢に行ってしまいます。
「ワイパックス」は、吐き気を引き起こすトリガーの1つを抑える
私もこの反応をどうやってご説明したらいいか、本で勉強したんですけど、なかなか難しくて。
この吐き気の仕組みについては、「ワイパックス」を処方されるときに説明があると思います。
吐き気を引き起こすトリガーの1つを抑えるために「ワイパックス」を使いますよ、といった説明です。
「ワイパックス」は、吐き気止めよりも、抗不安薬として認知されている
ちなみに、私が看護師の仕事をしている時に「ワイパックス」を人前で飲みづらくて。
「ワイパックス」は向精神薬の抗不安薬でもあるんですよ。同業者は知ってるので。
抗不安薬を飲んでいるということは、仕事が辛いんじゃないか、と周囲に気を遣わせてしまう原因になるんですね。
そのような背景もあり、職場で飲みにくかったです。
吐き気を抑えるのに使う、と職場で広めたかったのですが、言いづらくて。
ただし、抗不安薬として「ワイパックス」を知っている人からすると心配してしまう薬なので、飲むところを目撃されても、何か言ってくる人はいないと思います。
あと、友達と食事してるときに「ワイパックス」を飲む必要があり、何を飲んでるのか聞かれても答えづらいこともあります。
「ワイパックス」を、吐き気止めに使うことを知ってほしい
「ワイパックス」は人目を気にしてしまう面もあるので、使用する方は参考にしてみてください。
また、抗不安薬ではなく吐き気止めとして使っている方もいる、と多くの人に知ってもらえたらな、と思います。
特に、抗がん剤を扱う病棟で働いている若い看護師にも知っていただきたいです。
ありがとうございました。